この事例の依頼主
60代 男性
相談前の状況
依頼者の妻は,昼間は家業の農業を手伝い,夜は家事のほか夫の父親の介護に従事していたのですが,そのことが父親の死亡によって,遺産分割の中で他の相続人から何らかの考慮がされるだろうと思っていたのに,まったく度外視されてしまったことで,夫婦仲までぎくしゃくしてしまったとのことでした。
解決への流れ
当事者間だけの話し合いでは解決できない状態となっていましたので,家事調停事件を申し立て,その中で依頼者の寄与分を主張しました。このような主張は,金銭的評価が難しいこともあって,なかなかうまく進まないのですが,根気よく介護の実情を他の相続人に説明し,理解を求めていく努力を重ねました。当然,相手方にもそれなりの言い分があり,これにも耳を傾け,依頼者に理解してもらうようにしました。そうした努力の結果,当方の主張に対して,相手方も納得する部分が次第に大きくなっていき,完全に依頼者の期待にそえる結果は得られなかったものの,最終的には依頼者の妻の介護にもある程度の理解が示され,多少これを加味した遺産分割ができることになりました。
遺産分割の家事調停事件では,「寄与分」とか「特別受益」といったことが争われる場合が多いと思います。そんな場合,できるだけ具体的な事実を述べると同時に,相手方の反応なり主張を率直に受け止め,これに対しても単に否定したりするのではなく,これに対する理解を示すことも大事だと思います。そうすることによって,相手方も次第に態度を軟化させることもありますし,双方の譲歩のきっかけにもなり得ると思います。特に,感情的なことが先鋭化する家事事件では,当事者の冷静な考えができるよう,弁護士として最大限の努力が不可欠だと思っています。