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刃物男に警官が「7回発砲」 警察官が「拳銃を使って良い条件」は?
2013年08月04日 12時20分

刃物で切りつけてきた男に対して、警察官が7回発砲し、重傷を負わせる事件が7月21日、横浜市内で起きた。

報道によると、警察官は「客同士のトラブルで、包丁を持った男が客を脅し、逃げた」というコンビニからの通報を受けて、現場に急行した。警察官3人は住宅街の路地に男を追い込み、「包丁を捨てろ、撃つぞ」と警告。しかし、取り押さえようとした警察官を男が包丁で切りつけたため、ほかの警察官2人が、約3メートルの距離から計7回発砲した。威嚇射撃はなかった。

男は銃弾数発を腹などに受けて重傷を負い、その場で公務執行妨害と傷害、銃刀法違反の疑いで現行犯逮捕された。一方、肩を切られた警察官は軽症だったという。鶴見署の伊東博志副署長は読売新聞の取材に対し、「現時点で、捜査は適正だったと考えているが、さらに事実関係を調査する」とコメントしている。

警察官が拳銃を携えているのは「使うべきとき」があるからだろう。では、それは具体的にはどんなときなのか。法律は警察官の発砲について、どのように定めているのだろうか。荒木樹弁護士に聞いた。

●拳銃が使える場面は、厳しく限定されている

「警察官の拳銃使用については、『警察官職務執行法』という法律で決まっています。

警察官の武器使用が認められるのは、犯人の逮捕に必要な場合と、警察官もしくは他人の防護のために必要な場合のどちらかに限られています(同法7条本文)」

――それでは逮捕に必要なら、どんなときでも人を拳銃で撃って良い?

「いえ、武器を使うことと、その武器で実際に『人に危害を加えること』は別の話です。

人に危害を与えることが許されるのは、原則として、刑法上の『正当防衛』などにあたる場合に限定されています(同7条ただし書き)」

――拳銃を使うことが「正当防衛」になるのは、どんな場合?

「刑法上、『正当防衛』が成り立つためには、(1)急迫不正の侵害と、(2)防衛行為の必要性・相当性という要件が満たされる必要があります。

かみ砕いて言うと、(1)は、自分や他人の身に(違法行為など)不正な危険が差し迫っていなくてはならない、(2)は、身を守る必要性があり、手段も妥当でなければならない、ということですね」

――今回のケースは、それらの条件に当てはまる?

「報道によると、包丁を持って逃走中の犯人が、警察官の肩を切りつけたということですから、警察官の生命に対する危険はあったと言えるでしょう。したがって、(1)はクリアします。

一方、(2)防衛行為の必要性・相当性については、報道内容だけからは即断できません。具体的な状況による検討が必要です」

――今回のような発砲が許されるのは、たとえばどんな状況?

「本件では2名の警察官が、威嚇射撃をせずに7発の銃弾を発砲して、犯人に重傷を負わせた一方、警察官は軽傷とのことです。

たとえば、犯人が突然切りかかるなど、威嚇射撃の時間的猶予がなかった。さらに、切りつけられた警察官の生命の危険が切迫していた。初回の発砲後も犯人が包丁を所持して抵抗を続けていた……というような場合であれば、警察官の発砲行為全体について、(2)防衛行為の必要性・相当性が認められるのではないでしょうか」

日本では警察官が拳銃を使える条件は、法律で厳しく規制されている。今回のケースで、7回発砲したことが手段として相当だったのか、慎重に検証されるべきだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

刃物で切りつけてきた男に対して、警察官が7回発砲し、重傷を負わせる事件が7月21日、横浜市内で起きた。

報道によると、警察官は「客同士のトラブルで、包丁を持った男が客を脅し、逃げた」というコンビニからの通報を受けて、現場に急行した。警察官3人は住宅街の路地に男を追い込み、「包丁を捨てろ、撃つぞ」と警告。しかし、取り押さえようとした警察官を男が包丁で切りつけたため、ほかの警察官2人が、約3メートルの距離から計7回発砲した。威嚇射撃はなかった。

男は銃弾数発を腹などに受けて重傷を負い、その場で公務執行妨害と傷害、銃刀法違反の疑いで現行犯逮捕された。一方、肩を切られた警察官は軽症だったという。鶴見署の伊東博志副署長は読売新聞の取材に対し、「現時点で、捜査は適正だったと考えているが、さらに事実関係を調査する」とコメントしている。

警察官が拳銃を携えているのは「使うべきとき」があるからだろう。では、それは具体的にはどんなときなのか。法律は警察官の発砲について、どのように定めているのだろうか。荒木樹弁護士に聞いた。

●拳銃が使える場面は、厳しく限定されている

「警察官の拳銃使用については、『警察官職務執行法』という法律で決まっています。

警察官の武器使用が認められるのは、犯人の逮捕に必要な場合と、警察官もしくは他人の防護のために必要な場合のどちらかに限られています(同法7条本文)」

――それでは逮捕に必要なら、どんなときでも人を拳銃で撃って良い?

「いえ、武器を使うことと、その武器で実際に『人に危害を加えること』は別の話です。

人に危害を与えることが許されるのは、原則として、刑法上の『正当防衛』などにあたる場合に限定されています(同7条ただし書き)」

――拳銃を使うことが「正当防衛」になるのは、どんな場合?

「刑法上、『正当防衛』が成り立つためには、(1)急迫不正の侵害と、(2)防衛行為の必要性・相当性という要件が満たされる必要があります。

かみ砕いて言うと、(1)は、自分や他人の身に(違法行為など)不正な危険が差し迫っていなくてはならない、(2)は、身を守る必要性があり、手段も妥当でなければならない、ということですね」

――今回のケースは、それらの条件に当てはまる?

「報道によると、包丁を持って逃走中の犯人が、警察官の肩を切りつけたということですから、警察官の生命に対する危険はあったと言えるでしょう。したがって、(1)はクリアします。

一方、(2)防衛行為の必要性・相当性については、報道内容だけからは即断できません。具体的な状況による検討が必要です」

――今回のような発砲が許されるのは、たとえばどんな状況?

「本件では2名の警察官が、威嚇射撃をせずに7発の銃弾を発砲して、犯人に重傷を負わせた一方、警察官は軽傷とのことです。

たとえば、犯人が突然切りかかるなど、威嚇射撃の時間的猶予がなかった。さらに、切りつけられた警察官の生命の危険が切迫していた。初回の発砲後も犯人が包丁を所持して抵抗を続けていた……というような場合であれば、警察官の発砲行為全体について、(2)防衛行為の必要性・相当性が認められるのではないでしょうか」

日本では警察官が拳銃を使える条件は、法律で厳しく規制されている。今回のケースで、7回発砲したことが手段として相当だったのか、慎重に検証されるべきだろう。

(弁護士ドットコムニュース)

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