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「数千円で人殺しをする知り合いがいる」と脅迫 海外で厄介な日本人同士のトラブル
2022年04月17日 10時29分

以前に比べ、海外に住む日本人は増えています。外務省の統計資料によれば、1980年は約44万人でしたが、2020年には約135万人と3倍近くなっています。

現地の国の人とのトラブルに関しては用心する人が多いのに対し、盲点となりがちで、実はより厄介なのが「在住日本人同士のトラブル」です。

私は2002年から2020年まで18年間、ベトナムに住んでいました。海外に住むとなると、「自分の身は自分で守らなければならない」という場面が圧倒的に多くなります。

現地でのトラブルについてはその国の法律が適用されるのが原則ですが、「外国人の問題は当事者同士で解決してくれ」と突き放されるという状況を、私自身何度も体験したり、見聞きしたりしました。

この連載では、実際にあった事例を問題の背景とともに紹介し、海外生活を安全で有意義なものにするためのノウハウをお伝えします。(ライター・中安昭人)

以前に比べ、海外に住む日本人は増えています。外務省の統計資料によれば、1980年は約44万人でしたが、2020年には約135万人と3倍近くなっています。

現地の国の人とのトラブルに関しては用心する人が多いのに対し、盲点となりがちで、実はより厄介なのが「在住日本人同士のトラブル」です。

私は2002年から2020年まで18年間、ベトナムに住んでいました。海外に住むとなると、「自分の身は自分で守らなければならない」という場面が圧倒的に多くなります。

現地でのトラブルについてはその国の法律が適用されるのが原則ですが、「外国人の問題は当事者同士で解決してくれ」と突き放されるという状況を、私自身何度も体験したり、見聞きしたりしました。

この連載では、実際にあった事例を問題の背景とともに紹介し、海外生活を安全で有意義なものにするためのノウハウをお伝えします。(ライター・中安昭人)

●広告費払わないくせに「契約違反だ」

ベトナムのホーチミンシティで日本語フリーペーパーを発行していた浅井さん(仮名)は、広告主の不動産仲介会社が広告代を滞納していることに悩んでいました。同社の社長は、「日本での業界経験が長い」という40代の日本人男性Aさんです。

「ベトナムの不動産仲介業は日本に比べると10年は遅れている」と話すAさんは、毎月広告を出すという内容で1年契約を結び、初回の広告代金こそ景気よく現金で前払いしてくれましたが、3カ月目以降は早くも滞納し始めました。

支払いの催促をしても、「まだたった3カ月じゃないですか。それくらいで慌てなさんな。商売は順調ですよ」と言うだけで、「せめて1カ月分だけでも」とお願いしても応じてくれません。

次の発行号も広告を掲載しましたが、広告代の入金がなかったため、浅井さんはAさんに、「次号の締め切りまでに広告代の入金が確認できない場合、広告掲載を一時中止する」と電話で伝えました。

すると、Aさんは語気を強めて反論してきました。

「それは困る。ウチに来る客の95%以上は、そちらのフリーペーパーに出した広告を見た人なんだ。それに、私は1年契約を結んだじゃないか。途中で広告を止めるなんて契約違反だ」

●「数千円も出せば、喜んで人殺しをする」と脅迫

それでも広告代の入金がなかったため、広告掲載を中止したところ、すぐにAさんから電話がきました。猛烈な抗議をされるとともに、「広告掲載が再開されたら広告代金を払うが、掲載しないのなら払わない。広告掲載を拒否して客が来なくなり、ウチが倒産したらアンタに責任をとってもらう」などと言ってきたのです。

その日を境に、Aさんの言動はさらにエスカレート。ついには「私はベトナムの裏社会にも知り合いがいる。彼らは数千円も出せば、喜んで人殺しをする」「浅井さん、幼稚園に通う娘さんがいるって言ってたよね。彼女が不慮の事故で命を落としてもいいのかな」などの脅迫文句をメールで送りつけてくるようになりました。

命の危険を感じる事態だと判断した浅井さんは、ベトナムの警察に相談してみました。しかし、「事件が起こっていない現状では動けない」と言われただけ。在ホーチミン日本国総領事館への相談も「申し訳ありませんが、我々ではお力になれませんね」という回答でした。

何かしら手を打たないわけにはいかない浅井さんは、日本にいる弁護士の友人に相談。すると、「メールを読む限り明白な脅迫。日本とベトナムでは法律が違うだろうから確かなことはいえないが、ベトナムの弁護士さんに一度相談してみては」とのアドバイスをもらえました。

●危険は回避できたものの、結局は泣き寝入り

人づてにベトナム人の女性弁護士を紹介してもらい、Aさんから脅迫メールがあったことなど説明して調べてもらったところ、Aさんの会社のオーナーはAさん自身ではなく、Aさんの妻であるベトナム人女性だったことが判明。

女性弁護士を通じて、Aさんの妻に「こんな脅迫行為をしていたら、Aさんはベトナムから国外追放される可能性がある」と伝えたところ、事情をまったく知らなかったAさんの妻は顔を真っ青にして、その場でAさんに電話したそうです。

翌日、Aさんから、これまでとは打って変わって丁寧な謝罪が書かれたメールが届きました。「未払いになっている広告代は分割で返済する。警察沙汰だけはご勘弁を」とも書かれてました。

しかし、それ以降も支払いは一度もなく、浅井さんは日本円にして70万円ほどの損害を被りました。これについては泣き寝入りすることにしました。これ以上Aさんを追い詰めたら、何をするかわからないと感じ、金銭よりも社員や家族の命のほうが大切だと判断したからです。

●海外生活には「法律」という備えが欠かせない

昨今は海外で活躍する日本人弁護士も増えてきましたが、日本の弁護士資格は基本的に日本国内でのみ有効で、海外では現地の弁護士と共同で業務をおこなうことになります。

また、国外にいる日本人弁護士の取扱業務は企業同士の紛争解決などが中心で、個人間の紛争を解決するいわゆる「街弁(マチベン)」に該当する日本人弁護士は、日本国内に比べて圧倒的に少ないようです。

そのような事情がある中で、日本人同士のトラブルが起きると、「不正はやったもの勝ち」「被害者は泣き寝入り」という結果に終わることが少なくありません。

ベトナムだけではなく、タイ、カンボジア、マレーシアなどの近隣諸国に住む知人の話を聞いても、「海外で発生した日本人同士の紛争」の解決は困難が伴うようです。

海外に住むとき必要なものとして、「語学力」「お金」「滞在する国の食事や文化への馴れ」などがよく挙げられますが、それらと並ぶくらい欠かせないのが「法律に関する備えを持っておくこと」だと思います。

海外では在住日本人同士のトラブルが意外と多く、かつ「自分で解決するしか道がない」という可能性が高いからです。

日本にいる間に法律の専門家である弁護士の知り合いを作っておけば、これほど心強いことはありません。国が変われば法律も変わりますが、基本的な考え方は共通点が多々あります。私自身、日本在住の弁護士に助けていただいたことが何度もあります。

それらに加えて、紛争に巻き込まれたときに備えて、普段から法律に関する情報を気にかけておく。最低でも法律に関する知識が得られる情報源を確保しておく。これらは、海外生活を安全で有意義なものするためには必須だといえるでしょう。

【筆者プロフィール】中安 昭人(なかやす あきひと):フリーランスの編集者・ライター。1964年、大阪生まれ。約15年の出版社勤務を経て、2002年にベトナムに移住し、出版・編集業に従事。2020年からは主な活動拠点を日本に移し、ベトナムに関する情報発信を行っている。

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